人類はどこまで“宇宙のレシピ”を理解したか

“宇宙のレシピ”ってどんなもの?

―私たちが住んでいる世界はどのように生まれ、どのような構造をしているのだろう。

このあまりにも壮大で根本的な疑問はこの数百年間人類を魅了し続け、

世界中の物理学者たちによって多くの興味深い発見を経験してきました。

科学の歴史が始まってから数百年、人類はどこまで理解することができたでしょうか。

その集大成の1つと言えるのが素粒子物理学における標準模型です。


まず、素粒子とはなんでしょうか。

手のひらを見てみてください。

ご存知の通り、私たちの体は細胞の集合体です。

細胞は様々なタンパク質や脂質、核酸、水などで構成されています。

またこれらのものは炭素や水素といった元素で

構成されており、さらに細かくみるとこれらの元素は

全て陽子、中性子、電子で構成されています。

この陽子と中性子もクォークと呼ばれる粒子に分解でき、これ以上は細かくできません。

このようなこれ以上細かくできない、

内部構造を持たない粒子を素粒子と呼びます。

私たちの体も、スマホも、宇宙も全て素粒子によって構成されているのです。


素粒子の標準模型は宇宙のレシピだと言えます。

例えばカレーを作る際、私たちはレシピを知る必要があります。

材料は何種類必要で、それらをどう調理したらいいのか。

宇宙も同じです。

宇宙を創るためには材料となる素粒子は何種類必要で、それらをどう混ぜ合わせる(相互作用させる)といいのか。

これを説明するのが素粒子の標準模型なのです。

では実際この宇宙はどれくらいの素粒子と相互作用があればいいのでしょうか?

これまでわかってきたことをまとめたのが下の図です。

この宇宙に存在する物質の材料となるのは外側にある12個の素粒子です。

そしてこれらの素粒子は内側の4種類の素粒子を“キャッチボール”することによって各種の相互作用をします。

つまり内側の4個の素粒子が相互作用を司る素粒子でゲージ粒子と呼ばれます。

そして真ん中にある素粒子は他の素粒子とは少し毛色が違い、標準模型内の全ての素粒子に質量を与える使命を担うHiggs粒子です。

これら17種類の素粒子を用意してあげると、この宇宙が出来上がる。

これがこれまでの人類の集大成・素粒子の標準模型です。


“宇宙のレシピ”はもう完成したのか?

さて、標準模型の登場で人類は完全に宇宙のレシピを知ることができたのでしょうか?

残念ながらまだそうではありません。

いまだに解決されていない現代物理学の問題を今回は3つ紹介します。

①標準模型は重力を含んでいない

先ほど相互作用を媒介する素粒子は図にある通り、γ,W,Z,gの4種類あると話しました。

γ(光子)は電磁相互作用を媒介し、

g(グルーオン)は陽子と中性子を原子核内に閉じ込める強い相互作用を媒介します。

そしてWとZは共に核反応を司る弱い相互作用を媒介する素粒子です。

これで標準模型に組み込まれている相互作用は3種類だとわかります。

ですが、ここには私たちにとって最も身近な相互作用である重力が含まれていません。

素粒子の世界はとてもミクロな世界なので重力を理論に含んでいなくても高い精度での予言が可能ですが、より完全な理論に至るためには素粒子の理論に重力を組み込まなければいけません。

しかし標準模型の枠組みとなる素粒子の理論(場の量子論)は重力の理論(一般相対性理論)とめっぽう相性が悪く、ミクロな点で重力を考えると理論は発散、つまり破綻してしまいます。

このような問題を解決する量子重力理論

今も研究されており、有名な超弦理論はその1つです。


②標準模型はニュートリノの質量が組み込まれていない

2015年に梶田隆章さんがノーベル物理学賞を受賞されましたが、その受賞理由はニュートリノ振動の観測です。

何がすごいのかというと標準模型に組み込まれているニュートリノには質量がありませんが、

このニュートリノ振動によってニュートリノは質量が0でないことがわかったのです。

この実験事実がある以上標準模型を改訂しなければいけませんが、実は簡単にそうできないのが問題なのです。

ニュートリノに質量を持たせるためには理論のなかに右巻ニュートリノという新しい素粒子を導入しなければいけません。

しかしこの右巻ニュートリノは実験的に観測をすることが格段に難しく、現在も理論・実験の両側からその存在を追いかけています。


③標準模型では暗黒物質・暗黒エネルギーを説明できない

数百年かけて人類は宇宙の謎を探究し続け、ようやく標準模型を打ち立てるに至りました。

しかし、これらは宇宙のたったの5%ほどしか説明できていないということが宇宙の観測によって明らかになりました。

つまり残りの95%はよくわからない未知の素粒子や

エネルギーで満ちているというわけです。

これを暗黒物質・暗黒エネルギーと呼びます。

これまで人類が使ってきた観測手法が通用しないため、その姿を見ることはできていませんがそれは確かに存在し、そしてとても重い物質であることがわかっています。

暗黒物質の候補となっている素粒子は超弦理論などから複数存在が予言されていますが、実験的にそれらを発見するにはまだ至っていません。

現在データ取得中のBelle II実験やCERNにある大型ハドロン衝突型加速器LHCをはじめとし、将来的には国際リニアコライダーILCなどによる暗黒物質の発見が期待されています。


数百年の歳月をかけて人類は宇宙の成り立ちや構造を理解してきましたが、

未解明な問題はまだまだ多くあります。

日進月歩に発展していく素粒子物理学は今後も私たちにこの世界の美しさと雄大さを新鮮に伝えてくれることでしょう。

RikeJoy

「理系を楽しみ尽くす!」をコンセプトに現役理系大学生/大学院生で活動する学生団体です。

0コメント

  • 1000 / 1000